受講生へ「鋭にして鈍なれ」──続ける力こそが本物の強さ | 藤原進之介
2026年5月14日
「鋭にして鈍なれ」──続ける力こそが本物の強さ
5月も下旬です。2027年の共通テスト当日まであと246日となりました。本日は「鋭にして鈍なれ」という言葉を届けたいと思います。これは、受験生活だけでなく、人生全体を貫く大切な原則だからです。
攻撃性と鋭さが自分を傷つける理由
浪人生の頃の僕は、攻撃的でした。世の中のすべてにツッコミを入れていた。受験制度にも、予備校にも、先生にも、親にも、友人にも。そういう攻撃的な心は、意図せずして自分自身にも向いてしまうものです。自分の発言を最も頻繁に、近くで聞いているのは、自分なのですから。
「あの人は大して勉強していないのに、なぜうまくいくのか」「自分はこんなに苦しんでいるのに、なぜ報われないのか」——鋭くなっていたのです。他者と自分を比較する眼を常に磨き続けていた。その結果、本当に大事なものが見えなくなっていました。
でも今になって思います。あの鋭さは、自分を前に進ませる力になると同時に、自分を傷つける要素にもなっていました。鋭い刃物で自分を何度も切ってしまっていたのです。受験勉強において最も危険なのは「自分を客観視できる力」が、いつの間にか「自分を責める力」に変わってしまうことです。
多くの受験生が陥る罠がここにあります。基礎問題を間違えただけで「こんなことも解けない自分はダメだ」と自責に陥る。一度失敗すると「もう自分には無理だ」と過度に悲観する。鋭さがあるから、自分の弱点が見える。その見え方が鋭いから、失望も大きくなる。この悪循環を抜け出すには、どうすればいいのか。
「鋭にして鈍なれ」──4つのタイプから学ぶこと
「鋭にして鈍なれ」。「鋭にして」とは、感性が優れていること、本質を捉える力があること、そして問題を解く際に「ここが問われている」と直感的に分かる力です。「鈍になれ」とは、愚直に、同じことをずっとやり続けられる力です。習慣化できる力、単調さに耐える力、一度決めたことを変えない力——それすべてです。
人間を4つのタイプに分けると、こういうことが言えます。
- ①鋭にして鈍(最も強い):本質を見抜く力があり、かつ地味な繰り返しに耐えられる。数学の才能を開花させるのはこのタイプです。
- ②鋭にして鋭(器用貧乏。世の中に最も多い):感性は優れているが、コロコロと進め方を変えてしまう。器用だから短期的には成果が出ますが、深さが出ません。
- ③鈍にして鋭(自滅型):頭は良いが、行動が続かない。自分の限界を知っているから余計に動けなくなります。
- ④鈍にして鈍(大器晩成型):見た目は凡庸ですが、実は極めて優れているのではないか。感性とは、持って生まれたものではなく、磨くものだから。結局は、続けた人にはかなわない。
改めて考えると、④の「鈍にして鈍」が、実は極めて強いのです。なぜなら、感性や才能は「磨くもの」だからです。最初は才能がなくても、毎日毎日、同じ問題を解き、同じ単元を学び続ける。そうすると不思議なことに、ある時点で「あ、ここが問われているんだ」という直感が働くようになるのです。つまり、④が繰り返し続けると、やがて①に変わる。これが「本当の成長」です。
一方、②の「鋭にして鋭」は、最初は華やかです。いろいろな参考書を読む、いろいろなアプローチを試す。短期的には成果が出ます。しかし、一つのものを深掘りしないから、本物の理解に至りません。数学で「この解法が使えるのは、なぜこういう問題のときなのか」という深い理解は、何度も同じ系統の問題を解く中でしか生まれないのです。
「鈍器」が最後にあなたを救う理由
この比喩が、受験勉強の本質を言い当てています。
受験という「扉」は、一回のツッコミでは壊れません。鋭い刃物で尖ったアプローチをしても、その時は成功するかもしれませんが、次の問題では通用しない。なぜなら、受験問題は「本質的な理解」を問うからです。そして本質的な理解は、短期間では磨けないのです。
しかし「鈍器」で毎日毎日、同じ扉を叩き続けるとどうなるか。最初は手応えがありません。一週間経っても、扉は動きません。でも、たたき続ける。一ヶ月経つと、かすかにひびが入ります。二ヶ月経つと、扉が揺れ始めます。そして三ヶ月、四ヶ月と続けると、やがて扉は崩れ落ちるのです。
つまり「鈍器」の強さは「続く」ことにあります。折れないこと。へこたれないこと。同じペースを保つこと。受験生活における最強の武器は、実は「継続」なのです。
多くの受験生が「自分は才能がないから」と諦めてしまいます。でも、それは違う。才能がなければ、それは「磨く必要がある」というサインです。そして「磨く」というのは、地味なこと、単調なこと、つまらないことの繰り返しなのです。
自分の弱点を「敵」ではなく「磨く対象」に変える
受験勉強において「つまずくこと」と「続けること」は、実は深く関連しています。
問題を間違える。その時点では、多くの受験生が「ああ、また間違えた。こんなことも分からないなんて」と自責に陥ります。これが「鋭さの悪用」です。自分を傷つけるために自分を見ている状態です。
しかし視点を変えると、その間違いは「磨くべき部分」です。つまり「鈍器が当たるべき扉」です。なぜこの問題を間違えたのか、その根本の理由は何か、同じタイプの問題は何か、全てを丁寧に掘り下げる。そして、次の週も、その次の週も、その関連問題を繰り返す。それを三ヶ月続けると、その分野は確実に強くなっています。
つまり、受験勉強における「失敗」は「敗北」ではなく「発見」なのです。自分が磨くべき場所が見つかったということです。
浪人生活の地味さを受け入れることの価値
もう一つだけ、話をさせてください。僕の右目は、いつも充血しています。網膜剥離という怪我が原因です。右目の左半分が、見えなくなりました。あのとき、人生で最もリアルに死を感じました。見えていると思っていたものが、静かに、確実に、消えていく。
その経験があったからこそ、僕は気づきました。「人生は予測不可能であり、だからこそ、今この時間をどう過ごすかが全てである」ということを。
だからこそ、誰にもお構いなく、自分の人生を生きようと誓いました。面白いと思う人と過ごして、面白いと思う世界で生きていく。未来を怖がりすぎなくていい。余計なことに反応しすぎない。鋭さで他者や自分を傷つけない。鋭さで行動を止めない。今日もやる。明日もやる。うまくいかない日もやる。
受験生の皆さんに伝えたいのは、同じことです。浪人生活は、華やかなものではありません。SNSで「今日も頑張った」と発信しても、いいねはつきません。親や友人に「今何やってる?」と聞かれても「数学をやってる」としか答えられません。毎日が地味です。
しかし、その地味さの中に、全ての価値があります。
同じことを繰り返すことで「感性」が磨かれる仕組み
受験勉強において「感性」が磨かれるメカニズムを、もう少し詳しく説明したいと思います。
数学の問題を解く際、最初は「どう解くか」が分かりません。そこで参考書や解答を見る。すると「あ、こういう考え方があるんだ」と理解します。これが第一段階です。
しかし、理解は「一度の経験」では定着しません。むしろ、一度理解しただけでは「わかった気になっているだけ」です。同じタイプの問題を、次の週に解きます。その時点では「あ、これは先週やった解法パターンだ」と思い出すレベルです。これが第二段階です。
さらに、その関連問題を二週間後、一ヶ月後、二ヶ月後に解き続ける。すると、ある時点で「解答を見なくても、自分で解き方が思いつく」段階に達します。これが第三段階です。
そして、さらに繰り返すと「この解法が必要な場面を、初見の問題でも直感的に認識できる」段階に至ります。これが第四段階で、これが「感性が磨かれた状態」です。
つまり、感性とは「生まれつきのもの」ではなく「繰り返しの中で磨かれるもの」なのです。そして、この段階を踏むには「鈍さ」——同じ単調なことを続ける力が、絶対に必要なのです。
浪人生活は、正にこの4段階を、全ての科目、全ての分野で、繰り返し繰り返し踏み重ねていく作業です。
「鈍さ」に耐えるための心構え
では、どうすれば「鈍さ」に耐えられるのか。受験生からよく聞く質問です。
答えは「目的を明確に持つこと」と「毎日の小さな成長を実感すること」の二つです。
受験勉強において「なぜ勉強するのか」が曖昧だと、単調さに耐えられません。「とりあえず合格したいから」では、ダメなのです。「この大学で何を学びたいのか」「その先で自分は何がしたいのか」という目的が、深い所にあると、単調な繰り返しの中にも意味が見出せます。
次に「毎日の小さな成長を実感する」ことです。これは簡単なことです。例えば、昨日解けなかった問題が、今日解けた。それだけで十分です。昨日は「この問題は難しい」と思っていたのに、今日は「あ、こういうことだ」と分かった。それが「成長」です。この小さな成長を毎日積み重ねていく。そうすると「鈍さ」も苦しくなくなるのです。
「地味な繰り返し」こそが合格の本質
浪人生活は、正にこの繰り返しの中にあります。
同じ時間に起きる。同じ机に向かう。同じ参考書を開く。同じ単元を繰り返す。同じミスを直す。同じ不安を抱えながら、それでもまた勉強する。
この地味な繰り返しの中に合格はあります。決して、派手なテクニックの中にではなく。華やかな解法の中にではなく。「毎日毎日、同じ問題を解き続けた人」の手の中に、合格は握られています。
受験生の皆さんが今、感じているその「つまずき」「不安」「単調さ」は、全て「正常な信号」です。それは「あなたが正しく修行の中にいる」というサインなのです。
後246日。その時間の中で、何度も何度も「鈍器」を振り続けてください。最後にあなたを救うのは、その重さです。
日本数学塾では、この"なぜそうなるのか"を担任制で一緒に考えます。
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